M&Aの現場で、買い手が最初に行うのは、売り手から提示された決算書の「疑義の解消」です。中小企業の決算書には、節税対策やオーナー特有の事情が反映されていることが多く、それらを排除して「標準的な経営状態」に引き直す作業が必要となります。
これを「正常収益力の算定」および「実態バランスシートの作成」と呼びます。
損益計算書(P/L)の修正項目:正常収益力を見極める
損益計算書の修正は、一過性の要因やオーナー個人の事情を排除し、第三者が経営しても得られるであろう「実力値」を算出するために行います。
① オーナー報酬の適正化
中小企業では、オーナー社長の報酬が相場より著しく高い、あるいは低い場合があります。
- 修正方法: 同業種・同規模の「雇われ社長」の相場(マーケット水準)に置き換えます。差額を利益に加算(または減算)します。
② 公私混同費用の排除
会社名義で支払われているが、実態はオーナー個人の私的な支出(車両費、交際費、旅行代金など)を修正します。
- 修正方法: これらの費用を利益に全額加算します。
③ 非経常的な収益・費用の除外
火災損失、助成金収入、固定資産売却益など、将来にわたって継続しない一過性の項目を排除します。
- 修正方法: 特別利益・特別損失を原則として排除し、経常的な利益に引き直します。
貸借対照表(B/S)の修正項目:実態純資産を算出する
資産の中には、帳簿価額と時価が大きく乖離しているものや、実際には価値がないものが含まれています。
① 不良資産のオフバランス化
回収不能な売掛金、販売不可能な滞留在庫、回収見込みのない貸付金などを修正します。
- 修正方法: これらを資産から差し引き、実態の純資産を減額します。
② 含み益・含み損の計上
不動産や有価証券など、帳簿価額と時価に差がある項目を修正します。
- 修正方法: 最新の鑑定評価や時価に基づき、含み益を加算、含み損を減算します。
③ 簿外負債の計上
帳簿には載っていないが、将来支払う義務がある負債を洗い出します。
- 修正方法: 未払い残業代、退職給付引当金の不足分、係争中の訴訟リスクなどを負債に計上します。
【プロの視点】修正が「譲渡価格」に与えるインパクト
企業価値算定において、利益(EBITDA)が1,000万円修正されると、マルチプル(倍率)が5倍の場合、譲渡価格は5,000万円変動します。
- 売り手にとって: 適切な修正(特に私的費用の加算)を行うことで、自社の利益を正しくアピールし、売却価格を上げることができます。
- 買い手にとって: 徹底的なデューデリジェンス(資産査定)により、簿外負債や不良資産を見つけ出すことで、高掴みのリスクを回避します。
まとめ:正しい修正が「納得のいく成約」を生む
企業価値算定における修正項目を理解することは、自社の弱みと強みを客観的に把握することに他なりません。 特にM&Aを検討している場合、この修正作業を事前に行い、論理的な説明資料を用意しておくことが、交渉を有利に進める最大の鍵となります。
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