貸借対照表を見ていて、「役員借入金」や「未払金(役員)」が多額に積み上がっている会社は珍しくありません。経営が苦しい時期に経営者個人から資金を入れ、そのまま返済されずに残っているケースです。
普段の経営には影響しないため放置されがちですが、M&A や事業承継の局面では大きな足かせになります。
なぜ役員借入金が問題になるのか
買い手目線で見ると、役員借入金には次のような問題があります。
- 実態としての「負債」か「資本」か曖昧 — 返済義務があるのか、実質的に資本とみなせるのか
- DD時のスコープ — 過去の資金移動の説明責任が生じる
- 取引価格への影響 — 純資産評価時に「負債」として控除される
- 税務リスク — みなし贈与や貸付金認定課税の論点
特に中小企業のオーナー社長が相続時に株式を承継する場合、この債権が相続財産として評価され、思わぬ相続税の原因にもなります。
処理の選択肢
役員借入金の処理には、主に 4 つのパターンがあります。
1. DES(債務免除)
経営者が債権を放棄する方法。最もシンプルですが、会社側に債務免除益が発生し、繰越欠損金がなければ法人税課税の対象になります。
2. 増資(DES/デッド・エクイティ・スワップ)
債権を現物出資して株式に転換する方法。会社の負債が資本になるため、財務体質は改善します。ただし手続きは煩雑で、時価評価の論点があります。
3. 計画的な返済
毎期の利益の範囲内で、数年かけて返済していく方法。時間はかかりますが、税務・会計上のリスクは最小です。
4. 分割払いの約束(金銭消費貸借契約の整備)
契約書を整備し、返済スケジュールを明確にしておく方法。M&A時に「負債性のある借入」として適切に説明できるようにしておきます。
選択の基準
どの方法を選ぶかは、次の要素で判断します。
- 残高の大きさ — 小さければ DES、大きければ増資または計画返済
- 利益水準 — 毎期の利益で返済可能な規模か
- 繰越欠損金の有無 — DES の税務コストを吸収できるか
- M&A 予定時期 — 時間の余裕があれば段階的な処理が可能
早めに手を打てば選択肢が広がります。売却を決めてからでは、DES しか選べないケースが多く、税務コストも大きくなります。
まとめ
役員借入金は、放置していると数年後に必ず問題になる「時限爆弾」です。今日時点での残高を正確に把握し、向こう 3-5 年の処理方針を立てることをおすすめします。
具体的な処理方針の設計は、経営戦略・財務 サービスで伴走しています。